そよぐ風は青臭い緑の匂いを運ぶ。さやさやと鳴る木々の声の間、聞き慣れた足音を拾ってファルーシュは薄目で視界を伺う。

 緑と、金と、茶と、雑多で柔らかな色合いの中で、黒い服は殊更目だつ。
 予想通りの相手だと確認したファルーシュはためらう事無く再び目を閉じた。大きく息を吸えば心地良い草の匂い。

「あ、居た」

 小さく呟く声は自分を気遣ってか、足音も小さくなって、気配も遠くなる。けれど間もなく、糊のきいた布の匂いと空気の揺れを間近に感じる。それから髪に触れる手の感触。
 子供にするように優しく前髪を整える手は少し荒れていて、でも温かい。
 気遣うようにかすめていた手は、ファルーシュが全く起きようとしない事に調子にのって、三つ編みの先や、後頭部の辺りまで指を差し入れて悪戯を始める。
 髪留めが外されて、それでも編まれたままの長い銀の髪を手櫛でほどこうとしているのか、時折引っかかる感触が少々痛い。ふつ、と息を止めると慌てたように手が離れるのが可笑しくて、結局瞳は閉じたまま。

 瞼の向こうで光と影が往ったり来たりを繰り返す。
 それがカイルの手なのか、昼寝の枕に選んだ樹の、はるか上に広がる屋根からこぼれる木漏れ日なのか、閉じた瞳で判別はつかないけれど、




 とてもあたたかくて幸せなので、今は目は開けない。




 起きて一番、悪戯の跡を見て笑おう。


 あなたが横に居ても居なくても。











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