「うわっ!!王子ぃ!!?」
頓狂な悲鳴が聞こえた。頭上から。
寝そべった体勢のまま、視線をゆっくり声のした方に向ければ、青い青い空が途切れて白い壁、穿たれた窓。
金の髪に黒の衣装。
「カイル」
「はいそうです・・・っじゃなくて!危ないですよ、そんなところ!!」
そんなところというのは王宮の屋根の上。なだらかな曲面。
「もー、いつからそんなやんちゃな子になっちゃったんですかー?」
「リムと仲直りした頃?」
建設中の太陽宮の骨組みの上で、最愛の妹と交わしたやりとり。見渡した風景。
「綺麗なんだ、とても。ここから見る風景は。さえぎるものがなくて」
「いやまぁそれはわかりますけどね?俺の居る窓からでも十分さえぎられるものはないですからね?そこじゃ自分を遮るものもなくて危険でしょうが」
「自由だよ、とても」
だらりとのばした手足。見つかりさえしなければ(事実カイルが初めてこれを目撃したのだ)だらしなく寝そべるのは思っていたより心地いい。
ふりそそぐ光は全身を暖めて。ゆるやかに溶けるような気すらする。
視線をはるか空へ向ければ、ただ青く広く。ちっぽけな自分を抱きとめてくれるような。
「気持ちがいいんだ。ここが」
「・・・戻って来てくださいよー」
その声が酷く弱い。泣きそうな響きだ、と思い、惹き込まれる青さから目を離して振り向く。
「カイル?」
「そんなとこで一人で、空なんかに見蕩れてないでください。持ってかれそうで怖いです」
「僕が?どこへ」
「わからないですけどー・・・」
語尾は弱く途切れて、置いてかれる犬のような風情で(僕より年上のくせに)なんだか可哀想になった。
屋根に移ったのはカイルの居る窓からだったので、さほど距離はない。
「カイル」
屋根から精一杯体を伸ばして、金の髪をなでる。父が自分にするように、ぐしゃぐしゃと。
「どこにも行けないから、ここに居るんじゃないか」
「哀しいこと言わないでくださいよー」
触れられたことで安心したのか、窓越しに王子をぎゅうと抱きしめて。
「どこに行きたいんですか?王子」
「空の色の違うところ」
「・・・・・・」
「父さんの故郷の、群島諸国はもっと色が濃いんだって。北の空は寒くて、色も冷たいって」
でもねー、まだいいや。ぎゅうっとしがみついてくる男の背中をなだめるように撫でながら、明るく言った。
「どーしてです」
「カイルもリムも、父さんも母さんもリオンもミアキスも、大好きな人が一杯居てくれるから、ここでいいの」
「俺が一番ですか?」
「一番一緒に居て楽しい」
「王子!!」
殊更強く抱きしめられて、そのまま窓の中に引っ張り込まれる。四角く切り取られた青に目を向ける。
カイルはすっかり機嫌を直して、でも自分の手は握りしめたまま。
まぁいいか、と思う。



幸せだから、空に焦がれるのだと、誰に告げればいいだろう。




緩やかな不安は空へ呑み込まれる。その悲哀の青に、焦がれるのだと。






***