黒々とした山の稜線を臨む窓辺に近づこうとすれば、床がひどく冷えているのを実感した。ベットから少し歩いただけで、素足の裏がわは体温を奪われ、指先のジンとしびれてくるのが気持ちよかった。
白む空は冷たく薄青い。吐く息の白くなりこそしないが、足はそろそろ心地よいを通り過ぎて痛くなるくらいだ。
窓の外の風景は徐々に朝へと向かっている。山は青く照らされ、太陽はただ強く白い光を放つ。

「冷えますよー王子」
くぐもった、まだ寝ぼけた声が背後から聞こえたと思ったら、背中に温かさと重みと鼓動を感じた
。 「ほらもうこんなに冷たくなってー」
冷やすと体によくないですよーと呟く声が、どこか静謐な風景にそぐわず明るい響きをもったまま宙に放り出された。

「・・・空が」

「え?」
「ファレナの空と、随分違う」
「・・・・・・」
「蒼が薄くて、冷たいカンジだ」
綺麗だね、と小さく呟いて、カイルが抱ききれなかった肩や顔や、足が冷えすぎているのを辛いと思った。
カイルは黙って、震え始めた肩や腕を優しくさする。


「・・・やっぱり、寒い」


遠くへやっていた視線をふと戻して、彼の主は小さく笑った。
視界は切るように真っ直ぐな白い光に包まれ始めている。
「もう少しだけ、寝ましょうか」
頷いて、踵を返す王子を優しく抱いたまま、額に触れるか触れないかの口づけをする。


冷えきった肌の冷たさが。








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