「王子様! どこ行っちゃったの!?」
「くうぅー、くぅ!くうぅ!」
「王子!? 何でもいいから出て来て下さいー!!」
 見晴らしの良い草原地帯だ。人が隠れられるような場所はほとんどないし、第一隠れる理由もない。そもそも服だけ残して姿を消すという事態が異常なのだ。
 まさに草の根を分けて探す仲間をよそに、リヒャルトが暢気な声を上げる。
 黙ったまま、瞑想するかのように目を閉ざすゼラセにだ。
「ねー、何してるの?」
「・・・黎明の紋章の気配を追っているのです、黙りなさい」
 そのゼラセの言葉に動きを止めて、誰もが彼女の動向を見守った。
 目を閉じて瞑想していた彼女はつ、と瞳を上げ倒れたモンスターを見る。
「その下、ですね」
 モンスターの下敷きだと言うのだ。それは下手をすれば最悪の可能性でもある。
 大慌てで駆け寄り、太い腕を押し上げ、支えて下を確認する。
「ノーマちゃん、王子の足とか、見える?」
「えーと、えーと・・・あ」
 ノーマの腕がモンスターの体の下へ伸びた。ゆっくりと引き戻された手の先には、カイル達の望んだものではなく、小さな青みがかったグレーの毛皮の塊。期待しただけに落胆も大きい。

「・・・猫だよ、ノーマちゃん・・・」


「それです」


 冷たい声が割って入る。
「へ?」
「毛に覆われているから分からないでしょうが、間違いなく黎明の紋章の気配です。その獣が王子に間違いありません」
「ーーーえ?」


 ゼラセを除く全員の目が点になった。黎明の紋章が? ノーマの胸に抱えられた小さな猫に? それは、つまり??


「えええええーーー!!!」



 青い青い空に、絶叫が響き渡った。


***
あれ、通り過ぎた。
猫耳通り過ぎた。
・・・・・あれ・・・?(死)