シ
ュ
ガ
ー
ス
ポ
ッ
ト
「え? ノーマが?」 王子は珍しそうに聞いた。ルセリナは微笑んで続ける。 「はい、もうすぐ満月ですから」 「ああ、エルンストか」 ゼアラントから紋章に呪われてしまった幼なじみを救う為に旅を続けるノーマと、その問題の幼なじみ、ヒョウと化したエルンストは王子の軍に入っているレヴィの元で日々紋章の研究につき合わされている。 もともと戦闘向きのメンツではない、と王子も皆も思っているから、彼らが今回の遠征に名乗りを上げたのは意外だったが、理由を聞けば氷解する。 行き先はエストライズ、そこには色々な国の食材が集まる。満月の夜だけ人の姿に戻り、味覚も人と同じになれるエルンストの為に、ノーマは美味しいものを準備してあげたいのだ。 「そうか、じゃあちょっと途中草原も突っ切るから、メンバーは戦闘に長けた人にしよう」 そうして選ばれたのは、カイル、リヒャルト、ノーマ、エルンスト、ゼラセの5人。 「いいなぁ、エルンスト君は幸せ者だねー、いい食材があるといいねー!」 「くう!」 「王子様、ごめんね。でも頑張るよ!」 「ミューラーさんも僕が愛☆を込めて作ったら食べてくれるかなぁ?」 「・・・・・・愚かしい」 最後のゼラセの言葉が零下を越えていたような気がするが、そんな些事にこだわる王子ではない。朗らかに笑って、ビッキーの元へ向かった。 「お願いできる?」 「まかせて! ーーーえいっ!」 そうして彼らは城を出た。 満月まであと5日の日のことだった。 「ノーマ下がって!!」 「え、ーーきゃぁ!」 振り回されたリーチの長いモンスターの尾に、ろくな防御体勢も整わないまま弾かれそうになったノーマをエルンストが間一髪かばう。エルンストは腰のリボンに噛み付いてノーマごと跳躍しモンスターから距離を取り、自身の紋章の詠唱を始めた。 カイルとリヒャルトは図体の割に素早いモンスターの、丸太のような腕や長い尾をかいくぐり、斬撃を加えているが、なかなか倒れない。 今回の遠征はコレが目的だった。最近現れた強大なモンスターに手を焼いた住民が助けを求めて来たのだ。 二人はともかく、それでも充分強いメンツを選んで来たつもりが、予想以上の苦戦を強いられている。王子も棍をしまってモンスターから距離をとり、左手からばたばたと血を流しそれでも下がらず斬り掛かって行くカイルに黎明の紋章で癒しを施す。 「わっ・・・と、え?」 たまたまリヒャルトが斬りつけた所が、そのモンスターの泣き所だったらしい。絶叫とともに突如暴れ出すそれが、しゃにむに振り回した尾が撓った。 「王子!」 「ーーーーっ!!」 詠唱を続けていた王子を吹き飛ばす。咄嗟に腕で腹部を庇ったものの、尾の勢いは強くそのまま飛ばされた先は。 「えっちゃん!」 地面に叩き付けられるはずが、よりによってエルンストと衝突する。と同時にゼラセの紋章が輝いて、モンスターを叩き潰した。 倒れたモンスターの起こす土煙で、視界はようとして晴れなかった。 口を袖で覆いながら、カイルは声をたよりに仲間を捜す。 「王子!王子返事してください!」 「えっちゃん!王子様とぶつかったんでしょ?どこ?」 「くぅう〜、くう!」 「ねー、土煙抑える紋章ってないの?」 「・・・水を撒きなさい、そのくらい紋章でなくともできるでしょう」 大分規模が小さくなってきたそこから、ノーマとエルンストが咳き込みながら出てくる。エルンストは口に何かをくわえていた。 見慣れた赤い、襷。 「それ・・・王子の!」 エルンストに駆け寄り、カイルは晴れて来た土煙の向こうを見遣る。 「おう、じ・・・?」 王子の見慣れた衣装が、本人の、おそらく倒れ伏した姿のまま、中身だけ消えていた。 *** なんか全然湧いた気配が見えないんですけどとか言わない(涙) 猫の気配もないとか言わない・・・(汗) 後半ですよ、後半!!(自己暗示) |