
「滴」
今回はギャグではありませんが本編でもないのでこちらで。
金髪元不良騎士見参です。ファレナです。太陽宮です。
「ええ〜!?トラン共和国・・・?ってああ赤月帝国、そりゃ随分また遠い所に」
勝手知ったる他人の家、とばかりに女王騎士を辞した後も頻繁に現れるこの男。二月ぶりに来たと思えば相変わらず年齢を疑うような言動で、周囲を苦笑させている。
明るい金髪を垂らして、後ろでゆるくまとめるスタイルは上部を結っていない。かつて黒を基調にした服をまとい、黙っていれば文句無しの騎士ぶりを披露していたファルーシュの大人げなさの元凶は、ほとんど何も変わっていなかった。実年齢と女王騎士を辞した故のイメチェン以外。つまり外見以外。
「なんじゃ、兄上は其方には何も言うておらんかったのか」
かなり勝ち誇った表情と声音で現女王陛下、18歳の美女となったリムスレーアは優雅にお茶を楽しんでいる。
幼さの残っていた戴冠以降、兄を見本に気品と優雅な物腰を体得した彼女を、後ろで元不良騎士と同じく外見の変わらない筆頭女王騎士が色々企んでいるだろう微笑みで見守る。
「うう・・・俺も転々としてましたから、ここしばらく会えてなかったんですよねー。ここに来たのもあんまり音沙汰ないから俺が耐えきれなくなって・・・だし」
しょげかえった仕草の割に、言葉の中にしっかりリムスレーアの琴線に触れる単語を潜ませるあたり、多少は成長したのか。成長というべきかは難しいが。
「なんじゃと!兄上の方から其方に会いに行っておったのか!?」
あっさり引っかかる辺りリムスレーアはまだまだ未熟だ。兄が過保護すぎるからか。
「そういえばぁ、よくお仕事とは違うような書簡のやりとり、しておられましたねぇー」
煽るミアキスは相変わらず普通に黒い。
「ファル・・・じゃない、殿下ってば俺の居場所知ってるとしか思えないタイミングで視察とかに現れるんですよねー。それで一緒にお酒飲んだりとかしてー話してー」
さりげなく名で呼び合ってる辺りを強調してみたり、芸が細かくなっている。
「まぁほら、一応元女王騎士ですしー?色々相談とか受けたりね?」
頼られてるんですー、と得意げに胸を張る。ホントに三十路か。
「ぬぬぬぬ・・・」
一気に巻き返された、という複雑な表情で唸る女王陛下を後目にカイルは思い耽る。
「そっかー、じゃあ帰ってこられるまで会えないんですねー、寂しいなー」
「トラン共和国ってぇ、ゲオルグ殿が居たとこですよねぇ」
何でもない風を装って、ミアキスが爆弾を投下した。
「・・・・・・」
「そういえばゲオルグ殿も北に向かったっていうお話しですしぃ、いつもは陛下が勧めても「リムのそばで仕事してる方がいい」ってお断りになるのにぃ」
ふふふ、と多分に含みのある口調でミアキスが言う。
「騎士長代行に就任なさる直前に、殿下ってばゲオルグ殿に旅に誘われてたの、カイル殿ご存知でしたぁ?」
ていうかミアキスは何処で知った。デバガメたのかなどとツッコめる輩は残念ながら居ない。
「殿下も旅はすっごく行きたそうでしたしぃ、陛下ももう一人前ですしぃ」
「みみみミアキス!!?そなた何が言いたいのじゃ!?まさか・・・」
「そういえばお荷物、随分少なかったようなぁ・・・」
蒼白になったリムスレーアは口をぱくぱくさせている。
反対にカイルは素早かった。もともと荷物になるようなものは持っていない。壁に預けた愛剣を引っ掴み、金髪を揺らして扉に歩み寄った。
「カイル?」
「追っかけます!ずるいですよゲオルグ殿と二人旅なんてー!!どうせなら3人で旅した方が楽しいに決まってます!」
俺に黙って行っちゃうなんて酷いです!
という捨て台詞を残し、元不良騎士は太陽宮を飛び出した。
だからホントに三十路か。
犬属性は健在のようだ。
「みっ、ミアキス!そなた先ほど言った事はまことか!?」
カイルのように身軽に追いかけられる身分ではないリムスレーアは、蒼白な顔色のままミアキスに詰め寄る。
「あらぁ、陛下は自信がないんですかぁ?」
「何の自信じゃ?」
「殿下に愛されてるって自信ですぅ」
数瞬、言葉に詰まったリムスレーアはその意味を考え、一気に怒りで顔を赤くする。
「あるに決まっておろう!!兄上が妾の為にどれだけ犠牲にしてきたか、知らぬ妾ではないわ!!それでも自分より妾を優先する兄上に、愛されておらぬ筈がなかろう!!」
じゃが、と国の母から少女に戻ったリムスレーアは弱々しく続ける。
「妾は兄上からもろうてばかりじゃ。兄上の好きなものも、好きな事も、したいことも全て奪っておる。したが何も返せておらぬのじゃ・・・、あの父上の友人に誘われれば、今度は否とは言わぬかもしれぬではないか」
冗談のつもりで言った言葉に予想外の反応を返されたミアキスは慌てた。
「陛下・・・悪ふざけがすぎちゃいましたね、ごめんなさい・・・。殿下は戻ってこられますよぉ」
「なぜ言い切れるのじゃ」
「だってお仕事ですものぉ、お仕事はちゃあんと陛下に報告しなくちゃなりません。それに、殿下だって旅に出るなら必ず陛下におっしゃるはずですぅ。黙って出て行かないといけない理由はありませんしぃ、陛下だってもうワガママ言って殿下を困らせたりする子供じゃないって知っておられますぅ」
言われた言葉をゆっくり反芻し、リムスレーアはほう、と溜め息を吐いた。
「・・・それもそうじゃな。兄上は無責任な方ではない。まったく、なぜあんな事を言ったのじゃ!」
「だって殿下が帰って来るまで居座りそうじゃありませんでしたぁ?カイル殿。お仕事手伝って下さる筈もないですしぃ」
にっこり微笑むミアキスの顔には、笑顔であるにも関わらず「邪魔なんですものぉ」と書いてある、ような気がする。
「それにぃ、カイル殿もたまには運動しないと、なまっちゃいますしぃ?」
いくら英雄でも殿下お一人じゃ辛いかなぁ、って。
いいタイミングでしたぁ、と茶化すミアキスに流される事無く、リムスレーアは自分の護衛に詰め寄る。先ほどまでの年相応な姿は影をひそめ、瞳には強い光が宿る。それはファルーシュと良く似ていた。
「ミアキス、そなた何をつかんでおる」
質問ではない、確認であった。
***
元不良騎士ですよ、やっぱり耐えきれませんでした。
勢い良く走って行きます。大陸縦断しますよ彼はきっと。
あのですね、ホントに私カイルすきですからね・・・?(汗)