「滴」
こちらは本編よりさらにギャグ色の強い番外編のような小話です。
テンションも割とスゴいですので読む方はそれなりのお覚悟を(笑)
それではスクロールでどうぞー。
「待て」
「待てないな」
「いやちょっと待て!」
びゅっ、と空気を裂く重い音が連続して響く。人外一歩手前、驚異的な速度で襲いかかる赤い残像を華麗なバックステップで避けながら、リィにしては珍しく焦りもあらわに喚いた。
「何がそんなに不快だったんだ!?」
勝手に荷をあさって着替えを整えた事か?
料理に嫌いなものが混ざってたのか?
衣類を甲板に干したのが嫌だったのか!!?(だが下着は別の所に干しただろう!)
・・・どこまでも小間使いスキルの高いリィである。
ファルーシュも王族とはいえかつてはみずから軍を整え戦場を駆けた勇士だ。自分の事は自分で出来るし、見ず知らずの他人だったリィにそこまでしてもらうのも申し訳ないと思っていたのだが、リィがあまりに自然に動くものだから船上で完全にそのペースになれてしまった(動けないのも勿論あったが)
だがそうではない。
「そこのところは感謝こそすれ、不快なところではないな(下着はかなり焦ったが)」
「じゃあ何だ!!」
まったく身に覚えが無い!と叫びながらもリィの回避力ははんぱではない。腕がにぶったかと落ち込みつつ王兄殿下らしくなく舌打ちをかまし、けれど国宝を揮う手は休めず、
「言っただろう、陸についたら覚悟しとけと!」
棍を連結させ、一気に振り払う。それを跳躍してかわしたリィは距離をとって息を整える。
「・・・・・・言ったな。だがなぜ覚悟しなくちゃならないんだ」
「・・・本気か、本気で言ってるのか」
泣きたくなった。鼻がツンとしてくるのはゲオルグにプロポーズされた時以来だ。原因はその直前のおしゃれ眼帯判明による笑いをこらえた結果であったが。
「女性にしては目を見張る動きだが・・・そういう女傑もいないことはない。それに女性で騎士長まで登り詰めるのは凡人に出来た事じゃない」
女性らしさは失わないまま(中身はともかく)、見事に荒くれ海賊どもをまとめていた人もいるのだ。
正直いって、キカよりはるかに女性らしい。そこは誇っていい。
と本気で考えているリィに、棍をしまったファルーシュは殺意をしまって歩み寄り、おもむろにリィの手をつかみ、胸に押し当ててやる。
「解れ、頼むから」
とうとう懇願が混ざった。
少年だった頃なら、不本意ながら少女に間違えられても仕方の無い姿形だったと認めざるを得ない。けれどそれから約10年。当時の不良騎士と同じ歳になって、それでもなお間違えられるとはどういう事だ。怪訝に、もしくは確認の意をこめて尋ねられる程度ならまだいいが、明らかに女性と見て声をかけてくる輩も減らない。
リィは押さえつけられる形で触れている布越しの胸板を確認し、大きく頷いた。
「・・・・・・無いな・・・っもしや」
「あったら困る、男だからな!!」
おそらくハッキリ言わないと解らないだろう、という事実自体が深くファルーシュの心を抉ったが、これ以上遠回しに袈裟懸けされるのも同じ位・・・いや本気の賞賛まじりな分更にイタイ。
「・・・そうだったのか、すまない」
「・・・・・・ああ、やっとわかってもらえて良かったよ・・・マジで。」
得物を腰に戻し、疲れた表情でファルーシュは溜め息をついた。
我ながら少年相手に大人げないことをした。不良騎士を馬鹿に出来ない、あんな 24歳にはなるまいと思っていたのに。
物心ついた時からそばにいた所為で、しっかり影響を受けていた自分を再確認する瞬間がこんな時だなんて!
ところが御歳150云歳、ファルーシュより遥かに大人というかそれ以上の何かになっている筈のリィは、どこまでもリィだった。
「勿体ないな、そこまで綺麗な肌を保つのは並大抵の努力では足らないと聞いてるが・・・世間の女性に恨まれてないか?」
トリートメントと化粧下地は何だ。
真剣な顔で聞かれて、ファルーシュは笑った。このやろう、と言葉にならない言葉に唇が動いたが、リィは気付かない。
そうして極上の笑みを顔に張り付けたまま、掴んだ手を引き寄せて、
「リムの渡してくれるものだから知らない!!!そして化粧はしていない!」
轟音に森がゆれ、鳥が飛び立った。
並大抵でない努力は、ファレナの母たる現女王陛下と、その護衛の女王騎士達が嬉々として行っているようだ。
ちなみに太陽宮における女王陛下と騎士長代行閣下の仲のよさは相変わらず名物である。
国民もはっきりいって、もはや騎士長は王兄殿下でいいと思っている。
・・・いろいろな面でまだまだ改革が必要な国である。
とりあえずシスコン・ブラコン公認はどうにかしたほうがいい。それが全ての元凶だと思う。
***
群島諸国の女性達はきっと潮風によるお肌の荒れが最大の悩みだと思う。6代目だか7代目だかのチープー商会はそういう方面にも足を伸ばしてるんじゃないかな、とか。・・・ね?(ちょう笑顔)
王兄殿下は妹陛下から「毎日これを髪に塗るのじゃ!」とかってヤバい色の薬とか渡されても、疑わずに実行する。
ちなみに最後の技は投げ技だと思われます。
・・・ていうか、私、カイル大好きですよ・・・?