トラン共和国の祭典ーーーつまり、解放戦争が終わり、新国開廟記念式典。
 それは一方が駆逐され、滅ぼされたという現実。体験したものだけが解る、その言葉に含まれる命の多さ。喪った哀しみ、憎悪、悪意。決してそれだけではないけれど。


「・・・会えると、いいですね」
 かすかに滲んだ苦渋にリィが気付いたかどうか。
「うん」


「それにしても」
「え?」
 リィが持って来た果汁を飲みながら、時折こみ上げる物を耐えていると。
 隣にもたれていたリィがしみじみとファルーシュを見る。
「ファレナ女王国の騎士長というのは・・・女性でもなれるものなのか」
「・・・陸についたら覚悟しとけ」
 今は分が悪い。



 トラン共和国首都、グレッグミンスター。
 街の入り口から奥へ向かうにつれ、貴族豪族の屋敷が増える。街は記念式典の準備でにぎやかに華やかに人々が溢れかえり、ファルーシュに懐かしい感覚を与える。
 横に立つリィの表情は読めない。話をしていてもあまり感情が表にでないので、そういうタイプなのだろうと結論つけた。最初の印象はともあれ、話せばなかなかな人物である彼は、懐かしい友人に会えるのだと言うのに、浮かない表情のままだ。
 ちなみに宣言通り、ファルーシュは下船後リィに鉄槌を落としている。リィは意外にうっかりな性格らしく(実直ともいう)
「25歳!?男!?世間の女性に恨まれてないか??」
と地雷を踏み尽くしたので、危うく国宝の錆になりかけた。
そんな経緯があれども、横でふらつかれればファルーシュとて無視は出来ない。彼は群島諸国連邦の出身者らしく、海原より陸が苦手ならしい。
「大丈夫か?」
「揺れない地面に慣れないだけだ」
「えええもう一月立ってるぞ?」
 まだ引きずってるのか陸酔いを。
「いや、まぁそれもあるが」
 あるのか。
 一ヶ月経っても慣れないというのも筋金入りの海の男だが(なにせ150年、人の域ではない。海の男改め海の何かだ。)神妙な表情で肯定されると逆に居心地が悪い。
「そうではなくて・・・」
 リィは痛みをこらえるように、自身の手袋に覆われた左手をさすっている。
 ファルーシュは目を鋭くして、彼の手を見つめる。
 リィの得体の知れなさは、ただ素姓が分からないだけではない、その程度なら提督に確認すればすむのだ。
 異質、なのだ。発する気配が。
 只の少年にしては大きな、畏怖を呼び起こすような気配をかすかに感じる。それはまるで。

「・・・紋章が、呼ぶ?」

 ぽつりと呟けば弾かれたようにリィが振り向いた。
「何」
「私も、そういう力に縁があった。名残のようなものかな。君から気配がする。大きくて重い力だ」
「・・・」
「ここでも、紋章を巡る戦いがあったようだ。細作の話では、赤月帝国の有する覇王の紋章と、死を司る・・・」
「ソウルイーター」
「そう、ファレナに伝わる伝承にも記載があったな。負の力の紋章」
 歴史の合間をさすらい、気まぐれに命を奪う紋章だと、それ以上の細かい記載はなかったが。
「それから、確実な情報ではないが、門の紋章と、夜の眷属、・・・まぁ竜の紋章はもともとこの地の竜洞に伝わるものであったからな」
 随分と大きな紋章の集まりがあったものだ。
 貴族の領域に入れば、喧噪は遠ざかり、上品で高貴な雰囲気が流れ出す。だがそれもいまは戦の傷跡を隠す事はできていない。

***

2話目は短いめ。
やっとグレッグミンスター。首都の割にソルファレナと比べるとアレな街ですね。狭い
王兄殿下がリィに鉄槌を落とす話、ホントはつながってあったんですけど、あんまりギャグが勝っちゃうとシリアス展開しにくくなるので そういう所は番外的に「滴」に放り込みます。今でも割とギャグっぽいのに(汗)