天
上
の
青
は
今
日
も
「王兄殿下、御出立ー!!」
勇ましい声が響き渡り、拍手喝采で見送られる。
港は救国の英雄を一目見ようと押し寄せた民衆と、そこを見込んだ商人とでお祭り騒ぎになっているが、整列した兵卒は乱れをみせない。
それにいっそ爽やかなくらいで手を振り返す彼の顔は実のところかなり青ざめていた。
エルメラークは変わらない威容を誇り、王兄殿下と数名のお付きを呑み込んで、出向の警笛を鳴らす。
船は慣れた動きで岸を離れ、海へ出る。そう、海へ。
彼は未だに海は得意でなかった。
「・・・きもち、わる・・・」
ニルバ島で船を乗り換え、更に北上する。
トラン共和国はまだ遠く、従者はとうにファルーシュの体調を気遣うことなど出来はしない。何を言おうが、しようが彼にとってなぐさめにはなりはしないのだから。
リノ・エン・クルデス号に乗り込んだのは提督の強い誘いがあってだ。
自国の争乱から7年。ファレナは表向き建てなおったように見せている。
新女王リムスレーアと、『救国の英雄』と父と同じ称号を得て代理の女王騎士長として尽くすファルーシュ。争乱時からファルーシュに着いてきた街の有力者と共に、ファレナはゆるやかに改革を受け入れている。名君と名高かったアルシュタートの血を引いた子供達は、確かに国を導いていた。
戦乱の傷跡から国を立ち直らせようと必至になっている頃、はるか北の赤月帝国では大規模な反乱が起き、また大きな紋章の騒動もあったのだが、細作を放つのが精一杯だった。
おしゃれ眼帯の元六将軍は、今回は親友同僚に頼まれる事もなかったので傍観を決め込んだらしい。
その赤月帝国が反乱軍、帝国を守る盾であった六将軍の息子を旗頭に据えた「解放軍」によって倒されたのが、つい半年程前の報告によって明らかにはなっていた。
その解放軍による新たな国の門出を祝う式典。
かつてリムスレーアのゴドウィンによる一方的な戴冠式の折りに赤月帝国を招いたからの招待か、争乱によって乱れたとはいえ、未だ大国として君臨するファレナ女王国への敬意か。どちらにしろ招待を受けたついでに各国にファレナは安定していると見せつける意図も持って、ファルーシュが特使として向かう事になった。
それを聞いた群島諸国連邦のスカルド提督に共に向かおうと誘いを受けたのだ。
陸路より早く着くのに、断る理由は無い。
・・・この船酔いさえなければ。
「・・・・・・まぁ、海から、・・・ぅ、離れないと、うぷ。どうにもならない、な・・・」
「ふむ、しかし先はまだまだ長いですぞ。冷えた果汁ぐらい摂っておかねば、いざ祭典!で倒れるということにもなりかねんかと思いますがなぁ!」
ひとりごちたファルーシュの呟きに、なじみ深い声が返答する。
慌てて背筋を伸ばし、精一杯笑顔を張り付けて礼をする。
「あ、・・・スカルド提督、この度は、・・・同乗させて、っぷ・・・いただき・・・」
「その状態でなお立場を忘れん、見上げた根性ですな!!しかしまぁ儂の前では気遣いなど無用!その堅苦しい衣装もとっておかれた方が宜しいでしょう。はっはっは!!」
もう24歳だというのにわしわしと頭を撫でられ、吐き気は頂点に達した。
「こっちの方が風が当たる」
ひんやりとした手がファルーシュを引き、建物の影に引き込んだ。たしかに風は若干冷たく、強い。促されるまま手すりにもたれかかり風に当たっていると眼前に衣服が差し出される。
同い年くらいの、よく日に焼けた健康そうな少年。髪は栗色で、瞳が自分のものより深い、透き通った青をしていた。
「あなた、は・・・?」
スカルド提督配下には見えない、何より歳が若すぎる。ファルーシュより7、8歳は下だろう。服装も群島諸国の軍隊服ではなく、黒を基調にしたラフな格好だ。
「リィ。スカルドさんが丁度トラン共和国に行くって言うから乗せてもらった」
とつとつと話す口調は歳に似合わず大人びている。
スカルド提督の開放的というか、悪く言えば適当な性質は群島諸国という土地の持つものなのか、それとも他に理由があるのか、ともかく少年は何の手続きも踏まずに乗船したらしい。
それでいいのか、とツッコミたい所もあったが、他国の事にいちいち文句をつけるのもいやらしい。
渡された衣服は寝間着とまではいかないが、ラフなデザインで締め付けも少なく、着ればかなり楽になれそうだったので、ファルーシュは遠慮なく着替えた。
腰紐をゆるめに締めれば、圧迫はましになり、一息つけば絶妙なタイミングで冷えた果汁が差し出された。
後でたたもうと放り出した女王騎士の衣服はリィが整えてくれていた。下手な女官より手早い。というかどう見ても少年なリィのこの手慣れてます感は何だ。ますます訳が分からなくなった。
「貴方も、祭典に・・・?」
「いや、友人がトランに居るって噂を聞いたから」
ちょっと心配になって。
***
タイトル決まらないまま始まっちゃった本編(いつもそんなん)
4様も公式(?)のラズロにしようか悩んだんですけど、王子も坊も4様も、かなりオリジナル
はいっちゃってるから自分のでいいや、と。坊はあんまり気に入ってない名前だったのでティルで。
(いい加減)