レパントは折れた剣を確認し、静かにファルーシュに手渡す。受け取ったファルーシュは、潰したようにみせかけてその実まごうことなくファレナの紋を象った柄を、そこにこびりついた血をこすって、感情の色のない声で答えた。
「ええ、ファレナ女王国の紋ですね。だが、随分造りの粗い代物です。仮にも王家の紋を印すのに、この剣ではあまりに役不足です」

「ふざけるなっ!」
 輪の中から憎しみに満ちた声があがる。それを皮切りに、一斉に叫びとも怒号ともつかぬ声がそこここであがる。暴動寸前だ。
「友好国の振りをして、目当ては真の紋章か!?」
「他国が力を持つことが、それほど疎ましいのか!?」
 じりじりと距離を埋めていく群集に、ファルーシュは小さくため息を吐く。
 それを馬鹿にしたと捉えたのか、一人が奇声を発して躍りかかった。ファルーシュをかばうためにカイルが相対し――。

 その前にもう一人立ちふさがった。慣れた動作で飛び掛った相手の手首を掴むと、捻りあげて引き倒す。盛大にあがった落下音と砂埃に、怒号も罵声も鳴りをひそめる。

「おい、アレン、縄」
「ああ…」
 群集と同じく呆然としていたアレンはあわてて縄を取り、曲者を縛り上げる。
一方曲者を黙らせたグレンシールはマントを広げて振り返り、立ちふさがったカイルと、その向こうのファルーシュに頭を下げる。
「申し訳ありません、大変見苦しいものを。ご気分を害してしまったことをお詫び申し上げる」
「グレンシール殿っ!」
 謝罪の言葉に周囲から非難めいた声があがるが、決然とグレンシールは応えた。
「愚かな、真偽のほども確かめず、報告だけで逆上するな! 国家間の問題だぞ、私刑などまかり通ると思うな!!」


「わー、さっすがグレンシール殿、良いこと言いますねー!」
「…カイル殿?」
 ぱちぱちっ、と手を叩くカイルは周囲の緊迫にもなんら堪えた振りはない。むしろ余裕綽々で軽口めいた口調だ。
「わっかんないかなー? ほら」
 カイルはウィンク含みに指先を上空に指してみせる。

 巨大な影が庭園を旋回した。

***
控え居ろう!この印籠が目に入らぬか!!
こういうノリ、大好きです