「こちらには大変良くしていただきました。帰るのが惜しいくらいです」
「いいえ、こちらこそ貴殿のお言葉に随分背を押して頂けた。また機会がございましたらいつでもお越しください」
 ファルーシュ達南方組は、あと数日でこのトランを辞すことになっている。
 それを見送る意味をもって催されている宴のなか、参加しているのは同じく南に縁の深い国と、トランの主要な面々だ。
 相変わらずのきらめきで舞台を彩る主役と化しているファルーシュの側に、今回はファレナの正装で整えたカイルも居る。金銀効果でキラキラ倍増だ。
 人形めいた美貌で圧倒するファルーシュと違い、とっつきやすそう=くみし易そうなカイルは早速人に囲まれて辟易している。元女王騎士→ファルーシュの懐刀的な位置、というはなはだ都合のいい解釈のもと、野郎どもにもモテモテだ。災難だ。そんなカイルを盾に、ファルーシュはレパントと会話を続けている。
「ところでシーナ殿は? 遊山では随分世話になったので一言礼を言いたかったのですが」
「いや、今はまだ少し「準備」をしておりましてな。なにぶんこういった場所にはまだまだ不向きな息子ですので」
「そうですか、それでは、」
 と言葉を告ごうとしたところを、割り込んだカイルの声で中断される。
「殿下、そのー、こちらのアレン殿が、ファレナの剣技を見たいそうで」
「いやっ! カイル殿、私は貴殿の剣舞を拝見したいと…そんな王兄殿下直々になどっ…!」
 武官どうし、寄ればやはりそういった話に向かうらしい。まさかカイルがファルーシュに声をかけるなどと、予想もしていなかったアレンは恐縮しきり、その背後で表情こそ変わっていないが、グレンシールも興味深々で事態を見守っている。
「やー、だって俺の剣舞は自己流もいいとこですし、それがファレナの演舞、だなんて広がったらファレナ女王国の恥ですよ! ね、殿下」
「そうだな、だが私は剣はあまり…」
「いえっ、とんでもないです! お気になさらず、一兵士のたわごととお聞き流しくださいっ!!」
 背筋をぴしりと伸ばし、アレンはこれで終わりだとばかり言い切った、のにここでグレンシールが前に出る。
「そういえば、私も気にはなっていたのです。殿下のお腰の得物…ずいぶん変わった形のものだと」
「グレンシール!」
「何だ、武官としては気になるだろう」
「場と立場をわきまえろ!」
 ぼそぼそと言い合う二人に、ファルーシュは思わず笑った。不興を買ったか、とあわてるアレンに、そしてレパントに向き合い、ファルーシュは言う。
「そうですね、レパント殿さえ良ければ、…お二人以外にも興味のある方は多いでしょう。演舞で良ければ、いたしましょう」
 カイル、付き合え。と言いだしっぺのカイルを手招く。
 一方のトラン組は、あわてて場を整えにかかる。どうせなら広い場所を、と庭園に走る女官兵士を尻目に、レパントが小さく一礼した。

 事態は、緩やかに終焉に向かっている。

***
終章、ですがまだ長いです…。
アレン、グレンシールのノリは2のマイクとカミューに同じ。