「ない!」

 その言葉が合図であったように敵の輪が崩れ、振り下ろされる剣をかいくぐりリィとティルは反撃する。といっても多勢に無勢、無傷とはいかない。
 首を狙った突きをリィは最小の動きで横に流し、振り返る反動で相手の脇を薙ぎ、残ったもう一方の剣はティルに向かおうと背を向けた敵の足を斬った。
その向こうから飛び込んでくる相手の剣を受け流し距離をとりながらティルを見遣れば3人を相手に縦横に棍を振り回す姿が見えた。
年に見合わない強さは英雄の名に飲まれない確かさで。
 遠心力を利用して引き戻した棍で相手の側頭部を打てば膝から崩れる。その手から落ちた剣を遠くへ蹴りやり、両手に持ち直した棍で正眼に振り下ろされた剣を受ければ疲労の滲む腕はじんとしびれを訴えた。
一人二人と確実に倒して行くが、その度増える傷からの出血は視界を曇らせ、おまけに疲労も溜まっている。
 ただの山賊ならばそもそもこんな辺鄙な場所には現れない。間違いなくリィかティルを狙った刺客だ。
それでも最初は侮られていたのか、てんでばらばらに攻撃してきていたのが二人の実力を見て考えを改めたらしい。距離を取ったかと思えば複数で息を合わせてかかってくるようになった。
「ティル!」
 引き離された向こうでもリィの焦った声が聞こえる。あちらも大分苦戦し始めているようだ。
 まずいな、とティルも思った。未だに相手の方が数が多い。このままでは遠からず負ける。
おまけに相手は用意周到だったようで、紋章も水の上位魔法で封じられてしまっている。
効果自体は時間が経てば消えるが、その時間こそが今の二人にとっては問題だった。
 頬を剣先がかすめる。ちり、と走る痛みに顔をしかめ、右手に意識を集中させたが、やんわりと拒絶される感触に唇を噛み締める。同時に振り下ろされた剣を避け、後方に下がったところで獣の唸りのような声が響き渡った。モンスターかと更に焦りを浮かべ声のした方を見遣ってティルは目を見開いた。
「リィ!」
 交差させた剣ごと、勢いを支えきれず押し飛ばされるリィの姿が見えた。
受け身をとり叩き付けられる事だけは避けたリィだったが、不意打ちだったのか、右肩からの出血が酷い。

それを追いすがる刺客の動きが尋常ではなかった。他の誰より素早く力も強く、なにより理性を無くしたかのような咆哮。
 背筋を冷たいものが滑ったが、それに気をとられるわけにはいかなかった。再び連携を組んで襲ってくる相手に棍を構え直す。
 ーーーと。

「退がれっ!!」

 上空から降って来た声とともに強烈な風と氷の飛礫が吹き荒れた。


***
短ー!とか、言わない!(涙)