
天
上
の
青
は
今
日
も
「まったく・・・他国の首都の城の門前で何の恥をさらしてくれてるんだ」
「・・・すみません。ちょっと、我を忘れかけてたもので」
さっぱり湯浴みを済ませ、元の美男子ぶりを取り戻したカイルはさっそく女官に声をかけつつ、ファルーシュの室を訪ねた。ついでにちゃっかり酒肴を抱えている。
「ところでうわさの英雄殿はあの少年ですかー?」
「ああ、言いふらすなよ。どうやら大統領直々に箝口令を布いてるみたいだからな」
「勿論ですよー。あの歳の、普通の少年には荷が重いでしょう」
8年前を思いだしているのだろう。少々居心地の悪い沈黙に、ファルーシュはカイルから酒肴を奪った。
「ここへ来た理由はまぁともかく、いいタイミングだったよ、カイル」
「そのいいタイミングってのは?」
「うーん・・・打ち立てたばかりの国っていうのは、どうしてもざわつくものだからなぁ」
城に入って早々、ティルと会話を交わした後から妙な視線を感じる。かすかな敵意を滲ませたような。
それがあるいは単なる監視の目であれば問題はないが、ひっかかる何かがあった。ファルーシュの中の、武器を揮う者としての勘のような。
「カイル、大陸縦断して来たんだろう?街で得た情報とか、何か無いのか?」
他愛無い世間話の合間に、小声で話を進める。
「そうですね・・・あの少年に関わるものならまぁ余他話の類いから、割と危険なのとか、噂ですけど」
「聞こう」
夜は長い。城は煌々と灯を灯し、眠る気配は見せなかった。室近くに控えていた女官には下がるように伝え、いくつにも分かれている貴賓室の、一番中央の一室に足を踏み込んだ。
こん、と音を立ててグラスがテーブルに置かれる。照明に揺れて光を瞬かすそれを横目で見遣って、ファルーシュは溜め息を吐いた。いつもの微笑をみせないファルーシュの表情を見て、カイルが苦笑いをこぼした。
「ま、あくまでも噂ですよ、ファル」
「・・・良く出来た噂だ」
どこでも同じだな、と投げだされた言葉にカイルは肩をすくめるだけだ。
酒肴は尽きて、互いに交わす酒だけが増えていく。
「まさかファル、首突っ込むつもりじゃないですよねー?」
ぽつりと何でも無いように言うカイルの瞳は険しい。否定も肯定もしないファルーシュにグラスを追いやってテーブルを乗り出し迫る。
「これはこの国のことです、俺たちは関与すべきじゃない。余計な憶測と混乱を招くだけです」
「・・・カイルにしてはなかなか正論だな」
「茶化さないでください」
「たぶん」
手酌で注いだ酒は上質のものらしく、とろりとした琥珀色をしている。赤っぽい照明に照らされて、黄金のように光る。手の中で踊らせたそれはゆらゆらと光を撒いて、テーブルに複雑な模様を描く。
「それに乗じて、だろうなぁ」
「は?」
「どうしようか」
自身の内で答えは出てるのだろうに、それを口にせずカイルに意見を求める。脈絡もなく。
この甚だ人をバカにしたような言動は。
「ファル・・・あの軍師殿に似てきましたね」
せいぜい嫌みに聞こえるように口を尖らせて放った言葉は見事な笑顔に弾かれた。
「褒め言葉だな、カイル」
そうだ、とファルーシュは呟いて、カイルを見る。
「なんですか」
「いま、何持ってる」
紋章、とファルーシュは続ける。その言葉に嫌な予感を覚えつつも、考えが読めないカイルは渋々手の甲を見せた。
***
物騒になってきました。王兄殿下が。