門前では一悶着が起きていた。
 衛兵と、誰かが言い争っている。飛び交う怒声は互いの主張が合わないからだが、どうにもその雰囲気がおかしい。

「だーかーらー、呼び出してくれなくても、一声伝えてくれれば分かるの!!」
「お前のような身なりの者が、今回の国賓のような方々と知り合いだというのが信じ難いのだ!」
「あのねー、必死で大陸縦断してきたんだから当然でしょー!!?それどころじゃないんだよ、急いで伝えないと!」
「書状は?何か証明するものはないのか?」
「そんなのイチイチやってるより来た方が早いから・・・あーもぉぉお!!!」


 まるで大人と子供の会話である。
 近付き難く足を止めて見守っていれば、すぐ横で盛大な溜め息が聞こえた。

「あんのバカ・・・」

 ・・・聞き間違いだろうか。ついでにじわりと滲んでくる殺気のようなオーラは気のせいだと思いたい。すっごく思いたい。
 と思っていれば、ファルーシュがカッカッと足音も高く、赤い襷を見事に美しくたなびかせ颯爽と衛兵の後ろまで進む。
「カイル!!」
 衛兵が脇に退いたことで言い争っていた本人の姿が見えた。
 髪は長く伸ばして後ろでゆるく一つにまとめ、衣服もいわゆる旅装束だが、かなり汚れてすすけている。止められた原因のひとつであろう帯刀も使いこまれたものに見える。
 カイルと呼ばれた男はついさっきまで衛兵と怒声を(内容は至極くだらないものだったが)浴びせ合ってたとは思えない、満面の笑みをうかべて両手を広げる。

 ・・・なんというか、汚れた犬??

 ティルは一瞬でそういう判断を下した。間違っていない。
「ファル!!!」
 よかったまだ無事だったんですねー!!!
 と叫んで走り寄る。

 なんか感動のワンシーンっぽい。と次の瞬間、がくりとしゃがみこんだ。

 目の前でいきなり無言で崩れたカイルという男の行動に、衛兵は目を丸くしていたが、ティルは見た。
 ファルーシュ王兄殿下が、神速でカイルとやらの頭を殴りつけたのを。
 そして明らかに相当なダメージをうけただろう男に、容赦なく、言った。
「カイル、場を弁えろ」
 この時ティルは見ていなかったが、ファルーシュはそれはそれは見事な笑顔で言い切った。
 見えなくて良かったが。
 頭を抱え込んで呻き、うずくまっていたカイルは、ふーっ、と大きく息をすると、勢い良く立ち上がる。
 背筋を真っ直ぐ伸ばし、先ほどまでの子供っぽい笑みはどこへやら、下がり気味の瞳に真剣さを滲ませて一礼した。
 陥没したんじゃないかと思われる後頭部は長く伸ばした金髪に覆われてどうなっているのか定かでない。
「・・・王兄殿下。遅ればせばがらこのカイル、殿下のもとに馳せ参じました」
 その振る舞いは格好をのぞけば精鋭の兵そのもので、ファルーシュはまさに将そのものだった。
 従えるのが当たり前の傲慢さではなく、誰もが自然と頭を垂れる、そういう気をまとっている。事前のやり取りを思いださなければ。
「うん、いい時に来てくれた」
 でもとりあえずその姿はなんとかしたほうがいいな。
 これまた先ほどのやりとりを微塵も感じさせない威厳と輝きでファルーシュが応える。門番の衛兵は麗しさにみとれ感涙すらしている。
 衛兵にカイルと言う男が自分の腹心だと伝え、彼を城に入れるように言えば、女官がカイルを案内しようとする。
 それを遮ってファルーシュとカイルは一言二言言葉を交わし、目線で頷いて別れた。
 それから何事もなかったかのように振り返り(呆然と見ていたティルだが、ファルーシュのあの一連の行動は自分の目の錯覚かと疑いたくなるくらい普通な様子だった)
「さて、屋敷に戻るのだろう?リィにはよろしくと伝えといてくれるかな」
「・・・・・・・はぁ。いえ、はい」
 柔らかい笑顔に見送られてティルは城をあとにする。
 内心リィの「どつかれなかったのか」発言に、何が引き金だったのか揺さぶりたくなる衝撃を受けていたが。
 あれは六将軍ごときには一撃で天が見えるだろう。少年のナリのリィはどうやって生き抜いたのか。
 普通に耐えたカイルに賞賛の拍手を送った。心の中で。

***
とうとう現れました!(長かった!!)
そしてまたギャグに落とした。・・・。