「坊ちゃん」
 グレミオが少し言いにくそうに、口調を改める。
 クレオとパーンは空気を察し、そっと壁際に退いていた。その微妙な空気にティルはとまどった。
「どうした、グレミオ?」
「ええ、その・・・リィさんは、テッド君の・・・」
 息が詰まるような気がした。血の気がさぁっと引いて行くのが分かった。引き攣れを隠した心の真ん中をえぐる。
「・・・の、何」

「テッドの同士だ」

 空気の色の変わるのが分かっているだろうに、リィは何の変化もなくさらりと言う。
「どうし・・・?」
「分かるだろう?」
 ひょいと挙げられた左手の、手袋の中。ちりちりと皮膚を刺すような威圧感。重たい感情がのしかかるような。
 自身の右手に穿たれた、死神を押さえる。その仕草でグレミオ達も表情を変える。
「・・・紋章」
「まさか、真の・・・?」
「あんた・・・」
「俺は、テッドの紋章をよく知ってるわけじゃない。伝承の類い程度しか。それでも彼の抱えるものを、そう例えば只人の決して着いてこられない時間の流れを、その寂しさを共感出来る同士だった」
 かつて自身を苛み、許しを得て共にさすらうようになった紋章を撫で、淡々と話すリィは普通の子供にしか見えない。


「何年・・・」
「ん」
「何年、生きてる?」
「150年くらいかな」
 もともと孤児だ、正確な歳は覚えていないし、数えるのももう面倒になった。
 リィにはティルの知る紋章の継承者、レックナートのような神秘の雰囲気もなければ、仙人のような達観した寂寥感もない。まるで普通の、そうテッドのように、只の少年に見えた。
 だからこそ、何かが心に突っかかる。



  「半分だ、テッドの」


 思いもかけず強い声が出る。そこに子供っぽさが表れているようで、ティルは唇を噛んだ。
 リィはそれをどう受け止めたのか。表情も感情も覗かせない瞳は青く。
「・・・そうか」

 テッドは自分の事を話さなかった。
 それは紋章の負い目や悲しい記憶が多いからだと思っていた。自分以外に、例えば親友と呼べるような人を、300年の人生の中で見つけていて何がおかしい。
 そう思っていても、心に起きた波は鎮まらなかった。それは彼の事を、自分と出会う前のテッドを知らない悔しさと、それを知っているリィへの嫉妬が確かに混ざっている。


「半分だ」


 それだけの長い間を、リィはテッドと過ごしていたのか。テッドの人生のなかで、自分の占める割合はほんの少しなのだ。彼の苦悩も、悲しみも分かち合えた、リィは自分より遥かに。


「・・・テッドは・・・?」
 リィのその言葉の響きには悼む音が混じっていて、彼がもうこの世に居ない事を察している。
「・・・谷、だ」
 彼の魂はソウルイーターが奪った。ティルは長く一つの地に留まる事をやめたので、墓を守る事も出来ないと、作る事をやめた。



「シークの谷。そこが、テッドの最期の場所だよ」


***
ん、シリアス!!(良くやった!<あほか)
天上シリーズでは坊が一番子供。実年齢的にも、精神的にも。
書いてみると思った以上に子供らしくなったよ坊ちゃん・・・。
子供っぽい坊ちゃん嫌いな方申し訳ない。つかもはや王子も4様も
大概だよね!!(開き直り)2主はどうなることやら・・・(まだ先の先・・・