「何してるんですか」
 相手が誰の子供かわからない以上、年下だからといって砕けた口調では話せない。隠れるように緞帳の下に居たティルは、ファルーシュを感情のわからない黒い瞳で見上げ、小首を傾げて答えた。
「かくれてる」

 だろうと思った。

 とは言えるわけもなく、ふうん、と曖昧に相づちを打って、そこから出ようとしない少年の横に立つ。丁度彼を隠すように。するとその行動の意味に気付いたかどうか、少年は怪訝な顔をして、
「何?」
 とぶっきらぼうに聞いてくる。
「ここ、面白くないですか?」
「全然」

 会話終了。

 流石に絶句したファルーシュが気になったのか、きまずそうに顔をそらして、付け足す。
「家で修行してるほうがいい。服は動きづらいし、みんな父さん目当てで僕に寄って来るんだ」
「じゃあ、一緒に外出ませんか」
 考える間もなく放り出した言葉に、自分が励まされる。
 一人では心細いのも確かにあった。
「え」
「僕も飽きたんです。それで街に行ってみたいと思って」
「・・・・・・『僕』?



 ピシッ、と衝撃が走った。


 ああなんて事だ。思いだすべきでない事まで思いだしてしまった!



「おお、ファルーシュここに居たか」
「何だティル、お前また隠れているのか?」
 大勢の取り巻き候補を引き連れて互いの父親がやってくる。
 なんとも言えない緊張感が取り巻く二人を、その気配を察した父二人は顔を見合わせて手前で立ち止まる。
「なんだ、どうした」
「街に降りようと思ってたのか?威勢のいいのは歓迎だが、小さい子を巻き込むのはよくないぞ・・・いや、ご子息にとってはご自分の街でしたな、問題はありませんか!はっはっは」
「ほう、それはそれは。この街に来られるのは初めてでしたか。良ければ明日案内させましょうか」
 そんな会話の合間に、ティルは緞帳の下からでて、ファルーシュと向かい合った。7歳の彼は14歳のファルーシュと比べても、硬く短い黒髪といい、少しつり上がった瞳といい、何より日に焼けて健康そうなしなやかな筋肉のついた元気できかん気な少年に見えた。彼はその年の少年らしく、ファルーシュを遠慮なく上から下まで睨むように見つめ、
「・・・女の子じゃないの?」




「・・・っつぅわおっ!!!」


 忌まわしい記憶が蘇り、ファルーシュは頭を振った。
 取り巻いた大人達の笑いと父の「母と子自慢」が炸裂し、いっそ泡になって消えてしまいたいと思った人生最大の屈辱。いまならばいっそ蕩けるような笑みを浮かべてかわすことなど雑作も無いが、14の自分は恥ずかしさに耐えて涙ぐまないようにするのが精一杯だった。


「あああ思いださなければ良かった・・・!!!」


 ティルは覚えているのだろうか、だがむしろ確かめる事自体が苦痛だ。己の最悪の想像をむりやり撤回すべく必死に頭を働かせる。
「ふ・・・まさか。覚えてないって。さっきもきょとんとして見てたし・・・って!」


 前に会ってると宣言した数分前の自身を呪って、ファルーシュは机につっぷした。


***

そんな訳で邂逅編オチです。
封じていたトラウマです。(笑顔)
思わず叫んでしまいます、殿下だって☆