
天
上
の
青
は
今
日
も
「だが、今ここには居ないな」
壊れた扉から、金の髪に頬の十字傷の目だつ男と、髪を短く切り上げた女が出てくる。
それに笑顔で返しながら、リィを目で促すと、彼はぼそりと言った。
「あの気配を感じない」
暗く、大きな力。命を刈り取る死神の鎌、ソウルイーター。
リィの知る彼の望んだ、同時に恐れた温かい家庭、そこに異質な影を落とす紋章の気配はなかった。
「え、えええええっ!!??」
頓狂な叫びが広間にこだまする。
「ファレナ女王国って・・・はるか南方の大国のっ・・・あっ、じゃあ今回の式典の、国賓!?」
グレミオと名乗った青年は目を見開いて、慌ててファルーシュをこんな廃墟に近いような屋敷に招き入れた事を詫びる。
「パーンさん、ぼけっとしてないで、城に連絡してくださいよ!こんなお方をうちで歓待していいわけないでしょう!」
「いえ、お気遣い無く。こちらが強引にお邪魔したのですから。うちの従者が城の方へはむかっておりますので」
にっこりと微笑めば視界の端でパーンが目を見張っている。顔に大きく書かれている。『本当に男か!?』と。ギャラリーが居なければ徹底的にわからせてやろうものを。
リィは隣で出された茶と菓子に夢中になっている。グレミオの手作りだと言う饅頭は下手な料理人のものより遥かに美味だった。
「ところで、うち・・・と申しますか、マクドール家にはどのような用件で?」
「テオ・マクドール殿のご子息に会いに」
さらりと応えれば部屋の空気が変わった。
今まで口を開かなかった女性がすっと視線を鋭くする。
「なぜ?」
「・・・リィ」
目線で促すも、リィは饅頭に完全に心を奪われている。
「リィ。・・・失礼」
先に一言、優雅に断ると、派手にリィの後頭部を叩いた。手加減は一切していない。
手にしていた饅頭を鼻面に張り付けたリィはそれでももう片方を落としはしない。つかんだものは離さない。150年前のあの頃からすでに培っていた本能だ。
「むっ・・・いきなり何を」
「リィ、君が会いたいと言うから連れてきたんだ。その理由を聞かれている。君が答えるべきだろう」
「会いたいというか、俺はテッドに会いに来たのだが」
「テッド!!?」
「テッド君に!?」
ファルーシュはグレミオ達の表情に、驚愕以外の感情を見た。既視感、ちくりと心を刺すような、喪失の痛み。
リィが無遠慮な事を言い出さないか、慌てて彼の方を向けば、彼もさすがにそこは弁えていたらしい。瞳をかすかに陰らせて、ただ黙っていた。
「テッド君の、お友達、ですか」
グレミオが確認するように呟くと、リィは少し首を傾げる。
「友、とは思われてなかったかもしれんが。一種の同士だ」
「同士・・・?」
「・・・テッドは、もう居ないのだな」
「・・・・・・」
事実を確認するだけの単調な言葉。答えがなくとも、室内の雰囲気で肯定を見て取れる。
ファルーシュは冷めたお茶を飲んで、少し音を立てて置く。
「おもてなし、ありがとうございました。お忙しいところだったでしょうに、申し訳ない。私はそろそろ城の方に向かいます」
「あっ、いえ、とんでもない!こちらこそ・・・」
「リィはどうする?」
「俺は・・・本当はテッドの事を聞きたいのだが」
傷跡の癒えてない者達の心を抉るのはしのびない、と暗に言葉を濁せば弾かれたようにグレミオが顔をあげた。
「いえ、わざわざテッド君の為に来られたのでしょう。坊ちゃんもきっと喜びますから、坊ちゃんが戻るまではこちらにいらして下さい」
「坊ちゃん・・・?」
かつての友人を思いだす呼び名に何とも言えない表情になったリィだ。
「ご子息殿だ。この度は、大きな役目を果たされたそうですね」
「・・・ええ」
「一度だけ、こちらの王宮でお会いした記憶があります」
「え?」
「黒髪、黒目の凛としたお子でしたね。テオ・マクドール殿に良く似ておいでだった」
「・・・・・・」
「心中、お察しいたします」
あえて事務的に、ファルーシュは告げた。
「そして同時に、トラン共和国の開国のお祝いと、その繁栄をお祈り申し上げる」
傾いたままの扉を横目に、崩れた壁石を避けながら門扉をくぐり、マクドール家をあとにする。
城の前では今か今かと従者が首をながくして待っていた。
***
次、やっと坊ちゃん登場・・・の前に滴更新かなぁ・・・
カイルも出したいなぁ。(ぽつり)