「よく、知っている」
「仮にもファレナの特使を務めるのだから、必要だろう」
 気取る事もなく、淡々と述べる口調は少し重い。

 細作から届く情報は簡潔だ。けれどファルーシュは身を以て知っている。そこに、この戦に関わった人間が、どれほどの悲哀を、苦痛を抱え込んだか。だがそれを口に出来る立場ではない。

 それが許されるのは、当事者だけだ。

「ではファルーシュなら知っているか?」
「何を?」
「今の、ソウルイーターの継承者の名を」
 ああ、とファルーシュは足を止めた。
 周囲の飾りこそきらびやかな門扉と意を異にし、無骨な門と、そこから覗く大きな邸宅。正面の扉はまだ修理の最中か、半端に開かれている。
 そこからは、騒がしくも温かい、家庭の気配がしていた。
「パーンさん、そこよりも先に表を綺麗にしてください!」
「グレミオ、あとは正門だけだぞ」
「ああクレオさん、そこが一番大事なんじゃないですかー・・・」


「ここだ」
 ファルーシュが、ぼろぼろの玄関に立つ。
 体格のいい男がのっそりと壊れた扉から顔をのぞかせ、きょとんと目を瞬かせる。
「テオ・マクドール将軍のお屋敷ですね?」
「あんたは・・・」
「赤月帝国の六将軍、ゲオルグ・プライムに縁のある者です。ファルーシュ。ファルーシュ・ファレナスと。ご子息は、息災でおられますか?」
 極上の笑顔といきなり放たれた宮廷用語に、免疫のないパーンとリィは目を白黒させる。特にパーンは逃げるように中へ引っ込み、
ググググレミオ!!なんか、何かキラキラした人がきてるぞぉ!!」
「キラキラ?パーンさん、分かるように説明してくださいよ・・・」
 などとひと騒ぎ起こっている。
「いやだから、髪?顔?なんだかとにかくキラキラしてんだ!えーと、テオ様の知り合いだとか」
「だから相手も名乗っただろう、名は何て?」
「ファー・・・なんとか」
 とりあえず衝撃的な輝きで印象を固める男、ファルーシュ。名前とか出身とか、それ以前に「なんかあのキラッと輝く麗しい人」という説明で「ああ!!」と納得されたりする。そういう場合、納得した方もファルーシュの名を知らない、もしくは思いだせない事が多い。不憫なのか何なのか。
「それじゃ聞いてないも同然じゃないか」
「パーンさん・・・子供じゃないんですから」
 騒ぐ声に、柔らかな口調でたしなめる男の声と、きりっとした女の声が近づく。家人はどうやらそれだけらしい。
「・・・ファルーシュ」
「噂では」
 質問の答がかえってこないことに焦れて、リィが声をかければ扉の向こうに人影が表れる。ファルーシュは声を潜め、笑顔のまま、素早く言葉を告いだ。
「テオ・マクドールの息子が、忌まわしき紋章の継承者、そしてこの戦争の英雄だったらしいよ」  

***

ちょっとシリアスになって来た?
ていうか王兄殿下がどんどんあらぬ方向へ進んでます。わたし殿下をどうするつもりなんだろう・・・